clear
clear
物語編

第一章 第十五話 物語編

第一章    空間   と   時間
第十五話 意味を解する と 意識を介する

 

思惑通りなら、すべては、上手く行く筈だった。
しかし、濃密な時の流れが、それを許さなかった。
今ここに、十年先の過ちさえ、手繰り寄せてしまう。

 

この人は、教団の信者です、見たことがあります。

 

或る女が、私の腕を掲げ、皆の前に吊し上げた。
振り解いて、人混みの中に、紛れ込もうとしたが、
隣に居た男に、無様な恰好で、首根っこを掴まれた。

 

惨めさと、恥ずかしさで、取り乱して狼狽える。
初めて来た、私を捕まえて、信者と決め付けるか。
虚言を弄すな、心の深奥から、怒りが湧き上がった。

 

猛りに任せて、彼女を罵ろうとした、その瞬間、
ふと、ここまで見てきた光景が、脳裏を過ぎった。
ここで、彼女の嘘を責めては、皆と同じではないか。

 

老師のことを、解らないまま、人々は罵倒する。
私のことを、何も知らないまま、彼女は非難した。
思いのままに、相手を断じる所が、全く同じである。

 

わたしだって、思いのまま、人を動かしている。
自らを棚に上げ、彼らを、責めることは出来まい。
お互い様か、咎人が罪人を訴えられる、道理はない。

コメントを残す

入力エリアすべてが必須項目です。メールアドレスが公開されることはありません。