物語編
第一章 第十六話 物語編
第一章 異質 と 同質
第十六話 違えて見える と 同じに見える
平静を取り戻して、私は、三度目の嘘を吐いた。
それは誤解です、私は、友を迎えに来ただけだと。
それを聞くと、友として、彼らは受け容れてくれた。
私は三度、老師を敵にして、民衆を味方にした。
すると、味方になった彼らは、実に頼もしく見え、
教団奥に通じる、最後の扉まで、私を誘ってくれた。
“知恵の実を望む者よ、神の試練に臨んで来たか。”
三度、老師を売り渡し、辿り着いた真理の扉に、
およそ、私に向けられた、言付けが刻まれていた。
嘘を操り、意を適え続けた、心に深々と突き刺さる。
確かに、真理を追い求め、老師を訪ねて来たが、
その途上、老師を売り渡す、罪を犯してしまった。
真理の為とはいえ、これ自体、真理に外れてないか。
すなわち、嘘偽りの無い、真実を尋ねておいて、
押し寄せる、実感に呑まれ、幻想に逃げてしまう。
これは、生活に追われる、世間と同じではないのか。
ようやく、自らが犯した、罪の重さに気づいた。
涙ながらに、ここで初めて、本心から声を上げた。
人々は騒めき、冷やかな目で、私から離れて行った。